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【緊急提言】第9回「患者参画の医療政策決定を!」

日時2009-01-16 ゲスト埴岡 健一(日本医療政策機構理事/がん政策情報センター長)

【緊急提言】第9回「患者参画の医療政策決定を!」

衆議院の解散・総選挙で重要な争点のひとつと考えられる医療政策をテーマに、当機構は医療政策のキーパーソンの方々に「医療政策―新政権への緊急提言」と題したインタビューを行っています。

9回目となる今回は、当機構の理事で、がん政策情報センター長でもある埴岡健一に話を聞きました。
 
インタビューは、下記共通質問項目に沿って行われています。

<質問項目>
1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?
2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?
3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。
4.日本医療政策機構の今後の抱負は?
*今回だけは当機構理事ですので、いつもの「日本医療政策機構への期待やアドバイスを」の質問を上記に変更しています。
5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。


1.医療政策における重要課題、政党がマニフェストに盛り込むべきと考える課題は?

医療基本法成立

日本の医療における最大の問題は、制度が“パッチワーク”状態である点。医療システム全体をどう組み立てるかのグランドデザイン不在の制度が機能不全に陥るのは当然で、グランドデザイン不在の議論が不毛な各論の応酬となるのもまた然りだ。

グランドデザインなきがゆえに医療政策決定には、医療の主役である国民不在の議論がまかりとおり、大枠を決めた後にアリバイづくり程度に意見を聞く手法となる。国民に危機意識がなかった時代なら通用したかもしれないが、現状ではそのようなやり方は許されず、実行段階になってから破綻することは、後期高齢者医療制度の成り行きでも明白だろう。

今こそ必要なのは、医療のグランドデザインを規定した医療基本法である。忘れてならないのは、医療基本法制定の議論が特定のステークホルダーだけで行われてはならないこと。国民代表を参加させ、十分な議論を尽くして成立させるべきだ。

医療政策国民会議(仮称)創設

医療基本法にはいくつかの柱が考えられるが、中でも特に欠いてならないのが、医療政策に関する国民会議的機関の政府への創設。各立場を代表するマルチステークホルダーのメンバーにより、国民のコンセンサスとして政策決定する場、仮に名づけるなら「医療政策国民会議」を設けるのである。

カギとなるのは、患者代表参加の恒常化だ。現行の政府の医療分野における審議会などは医療がどうあるべきか、どのように資源配分をするかというところから議論できず、すでに決まった枠組みの中での議論しかできない側面が強い。

患者代表の参加した議論の有効性は、がん対策基本法の成立とその後のがん計画の策定過程によって証明された。患者の意見が反映されることによって国の議論が活発になり、ついには都道府県にまで波及する。そして、実効性のある政策提言を行うことができる患者や市民の立場の委員が都道府県レベルで育つ。このような現象は、医療政策を推進させる大きな原動力となり、結局のところ行政も政治家も、医療界もハッピー。もちろん、市民の幸福にもつながり、三者間にWin-Winの関係が成立することが実証されつつある。同様の手法は、他の医療分野においても成功をもたらすと確信する。

医療の質の測定

患者や国民が政策決定に参加する際には、公開され共有されたデータをもとにした議論が欠かせない。現状にどんな欠点があるのか、事実認識から意見が違っていては、議論が前に進むはずはない。何をめざすのか具体的に示す羅針盤が個々に違っては、迷走が生まれるだけ。とにかく医療の質を測って状況を比較するベンチマーキングが必要だ。

すでに欧米では、国民的に認知されたベンチマーキングをもとに現状を分析し、将来の目標値を定める取り組みが進んでいる。だが、日本はこの点では、未だはかばかしい動きはない。また、たとえば今、医師不足問題について「数が足りないのか、偏在なのか」との議論があるが、各地の医師などの資源数、疾病数、医療の質の現状といった基礎データに基づいたベンチマーキングなしで医師などの数を増やしても、偏在をさらに助長するだけで、医療従事者の労働条件の改善や医療の質の向上につながらない結果に終わるだろう。

ちなみに日本では、2003年にDPC(診断群分類包括評価)が導入され、多くの病院の診療行為のデータが集計し厚生労働省に提出されている。このデータがすぐれたベンチマークになる可能性を秘めている。現状では、医療コスト削減ツールとの認識が先行しているが、本来は医療の質を測る道具として大きな潜在力を持っているツールだ。日本の医療の質計測は欧米から2周、3周遅れてしまったが、DPCデータの活用次第では遅れを取り戻せる可能性もある。

医療の質・監視システムの構築

広い範囲で医療の質が測れるようになれば、医療の質が向上し、医療の安全性も向上し、無駄な医療費も削減できる。それぞれどの程度の改善を達成するかの目標も立てられるようになるだろう。そこで、提言したいのは、医療費の1%――総医療費35兆円なら3500億円――を予算にして運営する、医療の質・監視システムの構築である。この規模の予算があれば、公的な「医療の質安全局」のような組織もつくることができるだろう。

すでに欧米には、そうした機関が設置されている。たとえば、米国の政府機関である「医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)」は、患者の安全と質の向上とって有効で科学的な情報を集積する。英国にも、臨床ガイドラインの制定や標準治療順守率の向上促進に取り組む「国立保健医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE)」や、インシデント情報を収集して事故予防策を普及させている「国立患者安全機構(National Patients Safty Agency: NPSA)」などがある。

3500億円もの予算を投じる必要があるのかとの異論もあろう。しかし、結局は医療全体の劇的な効率化をもたらすシステムになるに違いない。

コールセンターの設置

国民は、健康に関してさまざまな不安を抱え、医療制度について多くの疑問も持っている。これまでは、質問や疑問を投げかけるところもなく、それが医療不信を深めてきた側面が大いにある。国民には、365日24時間、電話で相談し、意見を述べる場が必要だ。

もちろんセンターへの連絡方法にインターネットを加えてもいい。より利用しやすいシステムになるだろう。健康不安へのカウンセリングは、国民の健康教育になる。相談員やピアサポーターもたくさん育成する。医療制度への不満を述べる機会を与えることは、医療への国民参加を促すことでもある。

英国では「患者国民参加(Patient and Public Involvement :PPI)」という考えのもと、英国国立保健サービス「National Health Service:NHS)の病院運営に患者・市民代表の参加が義務付けられている。また、NHSダイレクトと称するコールセンターが稼働、電話による医療相談などを受け付けている。NICEがガイドラインの情報提供をしていることと相乗効果を生んでいるそうだ。

英国を参考にし、まず官主導でコールセンターと不随する情報提供システムをスタートさせ、軌道に乗った後に民営化する。そのような手順が理想的だろう。

2.課題解決を実現するための財源確保の方法は?

保険料

患者会の集まりなどで、「医療の質の向上がそれで実現されるならば、保険料の50%増や消費税の10%への引き上げに賛成し、自分の負担増を受け入れるか」とよく質問する。いつも、参加者の9割が賛成を表明する。患者は医療費の拡大に大いに賛成である。では、拡大の財源は税金か保険料か。個人的な見解だが、私は、2つの理由で保険料を主体とすべきと考える。

まず、税金を上げても社会保障に回る保証がない。社会保障に充てられても年金中心となって医療には回らない可能性が強い。

次に、税金で医療費をまかなうのでは、自分の負担と医療サービスの給付を結びつけて考えにくく、医療に関する国民の自覚を促せない。健康保険に関し、保険料を払っている国民の「おらが保険」「自分たちの相互扶助システム」という意識を高めることが重要だ。そのためには財源は保険料を中心とし、自分たちの健康保険がどんな財政でどのように使われているか、分かるような情報を提供することが大切だ。

保険料引き上げには、国民の納得を得ることが前提だが、現状の保険運営は不透明でわかりづらい。国民参加によって改善することがきわめて重要となる。そのためには、健康保険の運営を保険料を納めている加入者や患者が主導となるようにすることが欠かせない。国民は健康保険システムの当事者の中で「被保険者」と呼ばれるが、そのような概念も変えるべき。保険でカバーされている人である前に、保険料を払うという保険システムのオーナー的な立場にあるはずだ。また、保険によって提供される医療サービスの顧客の立場にもある。保険は患者のもの、国民のものであるといった意識を芽生えさせることが、負担と給付の問題を解決するための、遠い道のりのようで結局は一番の近道ではないか。もちろん、負担力がない人への対応は別途必要となる。

「医療の質の問題や、医療費の無駄がこれだけある。一方で必要な医療資源と費用はこれだけ。それを実現すれば、どれだけの改善ができる。だから、医療費を増やしてそれを実行させてほしい」。医療界が、そのように真摯に訴えれば国民は聞く耳を持っている。今のように、「医療の内実ははっきり見せない。でも、足りないのだからお金がほしい」というスタンスでは、広い国民からの納得が得にくいだろう。

3.課題解決のためにご自身が行っている、あるいは行おうとしていることをお聞かせください。

がん対策でモデルづくりを

まず、がんをテーマにさまざまな施策を実現すべく取り組んでいる。たとえば、がん政策情報センタープロジェクト。がん治療の地域格差や医療機関による治療レベルの格差の存在を明らかにし、格差解消のための好事例、ベストプラクティスを共有し、医療改革に取り組む熱心な人々の人的ネットワークを形成すれば、均てん化(どこでも高いレベルの医療が提供される)が図れるだろう。また、各都道府県で政策提言をする患者関係者、すなわち「がん患者アドボケート」の育成を支援している。こうしたアドボケートが各地の対策の活性化の起爆剤となりつつある。がん分野のモデルをきっかけに、ほかの疾病においても同様な活動が起きてくれればと期待している。

患者の声を政策に反映させる仕組みづくり

2007年9月からの助走期間を経て2008年7月に「患者の声を医療政策決定に反映させるあり方協議会」が、10の患者会を中心に作られた。疾病横断的な患者団体が緩やかに連携する場と位置づけている。英国では、慢性疾患の患者会を横断的にまとめた組織があり、患者約1700万人を束ねていると標ぼうし、医療政策に関する提言をし、政策決定にも強い影響力を持っていると聞く。日本でも、同様の組織ができればすばらしいことだと思う。日本医療政策機構の市民医療協議会もこの趣旨に賛同して設立メンバーとなっており、私は初代の事務局長を務めている。

医療政策立案にかかわれる人材育成

4年前に、東京大学に「東京大学医療政策人材養成講座(HSP)」が設けられた。マルチステークホルダーが一緒に医療政策の提言を作成することで、政策立案プロセスにかかわることができる人材の育成を目的としている。私は立ち上げ期からのスタッフだ。医療従事者、患者支援者、政策立案者、メディアなどの異なるステークホルダーが集まり、共に質の高い政策提言や医療改革の実践をする人々が、この場をきっかけにたくさん育ってきていると感じている。

医療改革推進に向けた民間基金の育成

国や地方自治体は、地域の医療計画を実施し、医療の均てん化を実現するため、優先的に予算を配分すべきだ。一方で、こうした公的な資金とは別に、医療改革を促進するための民間の資金プールも必要だ。ファンドレイジング(資金調達)で寄付などを集め、地域の医療対策に資金を投入していくという発想が大事になってくる。そして、その資金によって患者・市民、行政、医療施設・医療従事者、県議会議員・市議会議員、地元メディアなどが協力してプロジェクトに取り組んでいく…。

日本医療政策機構の市民医療協議会としてもそうしたことに取り組んでいきたい。また、各地で地元のための医療対策基金が設置され、資金規模が5億円、10億円と育っていけば、現在の地方自治体の医療対策予算の規模に比べてもそん色ない大きさとなってきて、地域医療を大きく変える可能性が出てくる。

自分たちの医療を行政に任せきりにせず、あえてみんなで資金を集め、政策の立案と実行に声も出して汗もかく。そういう中から生まれた成功事例は、これまでとはまったく違う医療政策のあり方を示すはず。

4.日本医療政策機構の今後の抱負は?

第2フェーズへ向けた活動の拡大

当機構も誕生して4年がたち、そろそろ第2フェーズに入る時期。医療に関する民間シンクタンクへの期待と役割は大きいが、まだまだその役割を十分に果たしてはいない。もっと、さまざまなプロジェクトが実施できる人材と資金などを集め、組織を充実し、掲げたミッションに則して積極的な活動を行って結果を出していかねばならない。成長の過程では、多少の失敗や学習も予想されるが、前向きに進むことが必要な段階だと認識している。

目標の設定と達成度の評価
 
「政策は戦略的に立てるべき」、「政策は評価されなければならない」。われわれが行政向けに常々発するこうした言葉は、自分たちにも向けられる。われわれ自体が目標をもっと明らかにし、戦略的にそれを達成する活動をし、評価が可能な方法で成果を説明しなければ、行政の医療政策を批評する資格が疑われかねない。

やっている活動とその結果をもっと分かりやすく説明し、支援してくださる方々にも納得し喜んでいただくことで、さらに支援者を増やしていきたい。

5.我が国の医療政策に必要な、もっとも重要なキーワードなどを「ひとこと」で示してください。

患者参画の医療政策決定を!

先に、患者会メンバーなどは、「医療の充実のために保険料の50%増や消費税の10%への引き上げ」に9割が賛成を表明すると述べた。医療者の集まりで同様の質問をすると、やはり9割が賛成する。ところが、新聞などの世論調査では、同様の質問への賛成は非常に少ない。


つまり、世論を前にすれば、患者も医療者も等しくマイノリティなのである。前者は疾病に苦しみ、医療制度の不備に苦しんだ経験から。後者は医療の現場にさまざまな矛盾があると、知るがゆえ。いずれも、経験から負担と給付に関する政策転換が必要だと認識し、大多数の国民の無関心に頭を抱えているという共通性がある。社会のステークホルダーの中で、もっとも似た基本方針を描くセクター同士といえるかも知れない。この両者がもっと協力・連携して、提言を発信しなければ医療は変わらない。その際、なかでも特に患者の役割が大きいと、私は考えている。

患者委員が積極的に発言している審議会や検討会を見ていて感じることがある。医療界や行政などのセクターを背景にしたメンバーは、出身母体の利害に関する発言が多くなる。また、パイの奪い合いの発想が強いと感じることもある。一方で、患者・市民の立場の委員は、問題解決と目標達成のために、包括的な提言をすることが多い。また、医療資源を増やす可能性はないかと、議論はパイそのものにも及ぶ。議論全体を目的などの基礎から包括的にし、かつ具体論も結果の実現性などの視点を踏まえている。会議の議論の方向と整理をリードしていると思えるときが少なくない。

政府や役人や医療従事者の言葉を信用しない国民も、患者の発言には耳を傾けやすいだろう。患者が家族に、さらにはコミュニティのメンバーに、自己の体験に基づいてあるべき医療政策を話して聞かせる行為は、地道ながら社会の医療への意識を向上させるには、もっとも効果的な手法だと思う。

医療についての議論への国民の関心を高め、医療に関する制度づくりに国民を参加させる鍵は、患者が握っている。その意味において、行政は医療政策決定の場に患者を参画させるべきだ。それが、結果的には政策の決定事項に対する国民の合意と納得につながるし、閉塞感が漂う医療分野において斬新な政策が実現できる道筋なのだ。

■略歴
埴岡健一
1984年、大阪大学文学部卒業。1987年、日経BP社(現)入社、日経ビジネス編集部記者、92年日経BPビジネスニューヨーク特派員、94年ニューヨーク支局長、98年日経ビジネス副編集長と、経済・経営ジャーナリストとして記事を執筆する。99年骨髄移植推進財団(骨髄バンク)事務局長となり、医療システム改革に取り組んだ。03年7月日経メディカル記者、04年7月同編集委員。がん患者支援サイト「がんナビ」の編集長も務めた。04年8月東京大学医療政策人材養成講座特任准教授、日本医療政策機構理事。07年4月、がん対策推進協議会委員となり、がん対策戦略策定に参加。08年10月、全国健康保険協会運営委員会委員。

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「緊急提言」シリーズはあらゆる分野の方々に幅広いご意見を伺うこととしております。当シリーズでインタビューにお答え頂いた方のご意見は、必ずしも当機構の見解を代表するものではございません。

 

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