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第28回朝食会「地球規模の保健医療課題解決に向けて、日本に求められる貢献」

開催日2010-05-27 ゲスト武見 敬三 氏 (財)日本国際交流センターシニア・フェロー グローバル・ヘルスと人間の安全保障プログラム運営委員長

第28回朝食会「地球規模の保健医療課題解決に向けて、日本に求められる貢献」

日本医療政策機構代表理事 黒川:グローバル・ヘルスは地球規模課題の中でも重要なもののひとつですが、そもそもグローバル・ヘルスが重要なアジェンダとして認識されるようになったのは、2000年の沖縄サミットを契機とし、日本のイニシアティブにより世界基金が設立されたことに端を発します。その後、ゲイツ財団やPEPFERなど様々なアクターがグローバル・ヘルスに関わるようになりました。武見先生は、国際的な感覚をもち、G8洞爺湖サミットに向けてのアジェンダ・セッティングを影で支え、またハーバード大学と共同でヘルス・システム・ストレングスニングを提唱されました。

カナダ・ムスコカでのG8サミットまで一カ月あまりとなり、日本医療政策機構も国際会議”What's next for G20? Investing in Health and Development”を英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)、米戦略国際問題研究所(CSIS)と共催予定ですが、グローバルな課題に対する日本のプレゼンスは非常に重要です。そこで、本日は、日本がどのようにグローバル・ヘルスに関わるべきか、武見先生に伺いたいと思います。

遠藤(司会):それでは、ここで武見先生のご紹介をさせていただきます。武見先生は『CNNデイ・ウォッチ』や『モーニングショー』のメインキャスターとしてご活躍された後、東海大学教授を経て1995年より参議院議員をつとめられました。議員期間中は外務政務次官をはじめ厚生労働副大臣まで数多くのご役職を担われ、2006年には国連事務総長下のハイレベル委員会委員として国際的にご活躍されました。その後、日医総研特別研究員、ハーバード大学公衆衛生大学院などを歴任後、2008年より日本国際交流センターシニア・フェローでいらっしゃいます。それでは先生、どうぞ宜しくお願いいたします。

武見:武見でございます。私は3年前の参議院議員選挙の際に落選をいたしましたが、その時にふと考えました。私は政治学をベースとして国際関係論の教師を務め、12年間の国会議員生活で医療制度改革に携わりましたが、これからはこれらを足して二で割った仕事をこれからの人生の柱にしようと思いました。他方、私が厚生労働副大臣を務めた最後の局面で、WHO事務総長選挙で日本からは尾身茂氏が出馬したものの敗北し、厚生労働省内で、これからは国際戦略を持たねばならないという機運が強まりました。そこで、私が責任者としてのタスクフォースをつくり、国際担当審議官の創設、キャリア・パスを含めた改革案を報告書として取りまとめました。こうした経緯をたばねたかたちで、そこで、私は二年半の間、ハーバード大学で、国際保健(グローバル・ヘルス)を勉強しながら、国内外で活動を行いました。

私は日本国際交流センター(JCIE)のフェローとして、トラック2としてG8サミットホスト国として日本の役割を支えるという仕事をしました。この経験を通じ、私は国際政治の分野で、21世紀に大きな地殻変動が起きていることを自ら体験いたしました。それは、21世紀型のジオポリティカルな条件のもとで、影響力を蓄積し、行使し、そのバランスの中でポリティクスが形成されるということ加え、改めて、21世紀は気候変動やエネルギー危機、食糧危機さらにはパンデミックにみられるような保健医療危機など、国境を越えた課題が噴出する世紀になることがほぼ明らかになってきました。多くの国の指導者もそのことに気付き、自国で、あるいは国際社会でどのような役割を確立していくかを戦略的に模索するようになってきました。国際的な共通課題に対する解決する能力を国内外において蓄積した国は、まさに、その能力を使って、21世紀型の新たなパワーポリティクスの中で、新手の影響力を構築する。我が国としても、国際課題共通課題を見渡した時に日本としても日本の比較優位がある分野で、いかに持続可能なかたちで新手のパワーポリティクスに対応し、我が国の国際社会での責任ある役割を果たすべきかを考えるときに、グローバル・ヘルスは我が国にとって国際社会で比較優位のある分野だと強く認識しました。

人間の安全保障とは?

「人間の安全保障」の概念が台頭してきた背景には、冷戦終結後、グローバル化による相互依存が深まり、気候変動、感染症・パンデミック、エネルギー等の国際社会共通課題が噴出してきたことがあげられます。国単位ではなく、個々の「人間」に焦点を当てた安全保障の必要性が高まりました。

そこで、2001年にわが国とアナン国連事務総長のイニシアティブにより緒方貞子前国連難民高等弁務官及びアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ学長(ノーベル経済学賞受賞者)を共同議長として「人間の安全保障委員会」が創設されました。同委員会は、2003年2月に最終会合を開催し、報告書に合意しました。

そこでは、人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可能性を実現すること(自由の拡大)、その実現のためには(非軍事的な)保護と能力強化が必要であると定義づけられました。より有意義な人生を歩むためには、職業訓練、個々の人間の様々な能力を評価することを通じて、必要な選択肢の拡大、いうなれば自由の拡大が求められています。それらを確実にするために、トップダウンでヒューマン・プロテクションを行うとともに、ヒューマン・エンパワーメントというボトムアップの両方の政策が必要です。そこで、コミュニティとそこに住む人々を対象とし、人権と人材開発の二つの視点を取り入れ、新しい政策概念として提示しました。従って、社会的に脆弱な立場にある方々に対するプライオリティが政策的に捉えられるようになってきたのです。

人間の安全保障と健康

人間の安全保障と健康はどのような関わりをもつのでしょうか。人間の安全保障という観点からは、人間にとっての生存、生活、尊厳をいかに守るかという3つの基本的な要素を考える必要があります。いかなる脅威が3つの要素を害するのかと考えた時に、疾病、傷害、障害、死亡があげられます。そして、これらの脅威を生み出す要因となるのは、紛争と人道的危機、感染症、非感染症、貧困と不公平などです。中でも感染症は長年、大きな脅威のひとつでありました。さらに、慢性疾患は途上国でも死亡原因としても大きなものとなりつつあります。また、貧困、不均衡の問題は、健康と表裏一体であり、経済・社会的側面と健康の問題は切っても切り離せないものであり、WHOでもSocial Determinants of Health(健康の社会的決定要因)として国際社会でも議論が定着しています。

次に、これらの問題に対する人間の安全保障のアプローチ法ですが、中央政府・地方政府によるトップダウンのアプローチと、コミュニティ(学校、病院・診療所、NGO/コミュニティ団体)の能力強化により政策決定・実施メカニズムに働きかけるボトムアップのアプローチの二つの視点で行います。つまり、中央政府も地方政府も実際に政策決定、実行する際に、コミュニティを単位としたボトムアップの政策と結合するときに、はじめて的確にニーズを把握し、効果的なサービスを提供することができるのです。

健康問題の外交課題化

先ほども申し上げましたが、21世紀型のポリティクスに伴い、健康問題は外交課題化してまいりました。グローバル化にともない、保健・医療問題にはどのような影響があるのでしょうか。保健・医療課題は、範囲(Scope)と領域(Domain)の拡大をしてきました。例えば新興感染症(パンデミック)にみられるように、保健・医療問題の地理的拡大と拡大スピードは加速化しています。また、国際的な健康格差の社会的要因(Social Determinants of Health)にみられるように、保健・医療問題は社会的な要因を加味したかたちで議論されなければならなくなりました。このように、保健・医療問題がグローバルな課題となり、当初保健省のみが担当していた課題が、外務省の課題にも広がっていくようになったのです。

グローバル・ヘルスが外交課題として顕在化してきた背景には、以下があげられます。

1.    現実主義的アプローチ(医薬品等知的所有権問題の深刻化、新興感染症の脅威の拡大等)
2.    道徳的アプローチ(健康悪化により発生する人間の生存、生活、尊厳に対する脅威からの解放を目指す人間の安全保障アプローチ)
3.    法律的アプローチ(基本的人権に基づく健康権の保障)
4.    理論的アプローチ 健康の社会的要因に着目したWHO委員会報告
5.    政治的アプローチ 国際政治における国力(パワー)の拡大

このようにグローバル・ヘルスは国際社会共通の重要課題として位置づけられ、その解決を目指し、国として取組むための戦略が考えられるようになりました。

米国
-    外交問題評議会(CFR):Global Health Program
-    国際戦略研究所(CSIS):Global Health Policy Center(Commission on Smart Global Health Policyも組織)
-    ブルッキングス研究所:Global Health Initiative

欧州
-    英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス):Centre on Global Health Security
-    フランス国際関係研究所(IFRI):“Health and Environment: from Safety and Security Issues to New Governance Options?” programme
-    スイス国際関係高等研究所(HEI):Global Health Programme

アジア
[日本]
-    (財)日本国際交流センター:グローバル・ヘルスと人間の安全保障プログラム
[シンガポール]
-    ナンヤン工科大学S.ラジャラトナム国際研究所(RSIS)非伝統的安全保障センター(NTS Centre): Health and Human Security Programme
-    リークアンユー公共政策大学院アジアとグローバリゼーションセンター(CAG):Global Health Governance Study Group国連における人間の安全保障と健康

また、国連においても2010年4月6日に潘基文国連事務総長により、「人間の安全保障」に関する報告書の発表を契機とし、5月14日には事前のディセミネーションセミナーとして、ニューヨークにて「人間の安全保障と健康」を(財)日本国際交流センター、日本・ノルウェー国連代表部及び国連人道問題調整事務所(UNOCHA)が共催いたしました。当セミナーを経た、5月20、21日の国連総会におけるパネル討論・公式討論では、非常に活発にパネル討論が行われました。

グローバル・ヘルスの潮流

グローバル・ヘルスでは、MDGs4,5の遅れ、世界的な高齢化、そして疾病構造の変化が重要課題として捉えられています。このような問題が広く認識されるにともない、近年、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)、ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)等、世界保健機関(WHO)以外の様々なアクターが台頭し、さらに、ヘルス8(H8)という8つの保健関連機関(上記機関と国連機関)のトップによる非公式協議の枠組みがあります。このような様々なプレーヤーの台頭、様々なイニシアティブの創設に伴い、これまで重要な役割を果たしてきたWHOが、多くのプレーヤーを統括し、調整、牽引していくことが困難になっています。そこで、ついに第63回世界保健総会(WHA)において、WHO改革議論が表面化しました。このようなGlobal Governance on Healthは恐らくグローバル・ヘルスの新しい課題として議論されていくでしょう。

G8北海道洞爺湖サミット及びそのフォローアップに見られた革新的な政策形成過程

我が国は、このような大きな変革の局面で、どのようなことを国際社会に発信し、どのような重要な役割を果たすか、日本のグローバル・ヘルス戦略の確立及び官民が一体となる仕組みを作ることができるかが問われています。

今後は、子どもや女性の健康の問題に加え、慢性疾患や高齢化の問題が世界に広がることが予測されます。慢性疾患の場合には治療が長期化しますので、医療のデリバリーシステムの強化が必須です。このような保健システム強化の必然性に、多くの国の政治家が気付き始めました。そのため、保健システムの議論の場として、今年の11月にはWHO主催の”Global Forum for Health Research”が開催予定です。

最後に、日本にとっての課題ですが、官官協力、官民協力の制度化、政策指向のグローバル・ヘルス専門家の養成、グローバル・ヘルス外交の確立があげられます。

2008年のG8北海道洞爺湖サミット及びそのフォローアップの際には「グローバル・ヘルスの課題と日本の貢献」研究会が官民協力の場として非常にうまく機能しました。研究会は全員参加型のアプローチを行い、厚生労働省、外務省、財務省、JICA/JBIC、国立国際医療センター、 日本医師会、日本医療政策機構、NGO/財団、学者、が参加し、事務局は(財)日本国際交流センター(JCIE)が取りまとめました。当研究会は、G8保健専門家会合(政府レベル)と連携、またWHO、世界銀行、NGO、ハーバード大学等との国際的ネットワークの活用し、G8洞爺湖サミットの議題設定及びサミットのフォローアップを先導しました。

また、引き続きディセミネーションのため、2010年5月14日、NYセミナー「人間の安全保障と健康」の開催、2010年11月末、東京セミナー「人間の安全保障と健康」の開催、アジアにおいて「人間の安全保障」アプローチを推進する戦略の検討、及びアフリカ、中南米でのセミナーを開催予定です。

2009年に厚生労働省内にグローバル・ヘルス専門家のためのキャリア・パスを構築するため、国際保健担当審議官を創設しましたが、-国立公衆衛生科学院、国立国際医療センター、国立感染症研究所、JICA間の連携を強化し、日本版NIHの創設が必要だと考えています。

日本が外交、安全保障という観点からも、戦略的目標の策定、政策決定機能をもつための連携の絶好のチャンスだと考えています。21世紀型パワーポリティクスのうえで、生き残るためにも、日本の比較優位のある部分を、国家目標と政策を通じてネットワークの構築を行い、官民の協力体制をつくることが重要です。大きな時代の変革の局面をいかに日本の政策に活かすかが問われている時なのです。

遠藤(司会):どうもありがとうございました。それでは質問に移らせていただきます。

質問者:ここ数年で一番のビジョナリストの講演を伺いました。グローバル・ヘルスというクロスボーダーの課題に対し、後進国の問題にもグローバルな視点で援助する必要がありますが、そのための財源確保についてはどのようにお考えでしょうか。また、人間の安全保障という考え方が基礎となると思いますが、国家戦略してのグローバル・ヘルスをどのようにお考えでしょうか。

武見:保健医療は保健医療産業との連携が不可欠です。途上国の医薬品産業に対するネガティブな印象を改善しなければなりません。限られたリソースをどのように活用するか、ダイナミックな視点が必要です。また、日本の産業界、NGOも含めたオールジャパンで取組む仕組みが必要なのです。政策論という観点だけでなく、新しい社会をどのよう創るか、という視点が重要だと考えております。

質問者:武見先生は人間の安全保障の視点から見た健康についてのご説明の中で、生存、生活、尊厳を重要な三要素としてあげていらっしゃいますが、これはどのようなお考えから生まれたものでしょうか。また、保険、医療、福祉の分断化が問題となっていますが、福祉に関してはどのようにお考えでしょうか。

武見:私の父の武見太郎は日本医師会会長を務めた後、生存科学研究所を創設し、良き人間の生存のための条件整備の研究に努めました。まさに今日でいうSocial Determinants of Healthにつながるものであり、私もその影響を強く受けました。私は生存ということを考えた時に、survivalではなく、human well-beingとして位置づけています。そして、私にとって、人間の安全保障は人間がよりよき生存を求める考え方を実行するための政策概念として位置づけられています。これが、親子二代にわたって、発展してきたプロセスであったのかと振り返って思います。

また、二つ目のご質問ですが、2011年は日本が皆保険制度導入して50周年ですが、それを記念して、ランセット日本特集号プロジェクトを準備し、また、2010年9月1日(水)に国際シンポジウム「21世紀の新たな皆保険制度:日本の医療システムを再考する(仮題) 」を開催予定です。これは、世界標準における日本の比較優位を、我が国の保険医療を総括するかたちで準備し、またそれに基づいて我が国に最も適切な保険戦略の構築を目指しています。また、保険医療改革は参議院議員選挙後、大きなアジェンダとなることが予想されますが、その際に、どのような保険医療制度改革を目指すべきかを示すことが二つ目の目的です。

そして、介護という生活と高齢者医療をどのようなかたちで断絶させずに再構築するかは日本における最大の課題だと思います。私は介護保険導入に携わりましたが、その際もどのように高齢者医療費の支出をおさえるかが前面に出ていました。現時点では、介護、医療保険の連携ができていませんが、場合によっては、介護保険と医療保険の統合を視野に入れてもよいのではないでしょうか。幸いにも、今は、白紙からやり直す政治環境が整ったと考えられるのではないでしょうか。

 
 

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