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対談「衆院選2014:各党マニフェストを読む」

日時2014-12-02

対談「衆院選2014:各党マニフェストを読む」

総選挙公示直前の12月1日、各党が医療政策についてどのような政策を打ち出しているのか、また消費増税先送りの影響はどうなるのか、日本医療政策機構の宮田俊男と小野崎耕平が対談を行いました。


■医療・社会保障、各党の政策は

小野崎:急な解散総選挙ということで各党慌てて作った感があるマニフェストだが、かつて「マニフェスト選挙」と言われたころの盛り上がりと比較すると、各党とも低調な印象だ。重点政策、総選挙政策、など各党呼び方はさまざまだが、ここでは便宜上まとめてマニフェストと呼びたい。まず全党のマニフェストを見た印象は?

宮田:正直、医療・介護・社会保障領域ではインパクトがないと思う。選挙の争点に社会保障は入っていない。

小野崎:各種世論調査でも「投票で重視する政策」という問いに対して、上位に入っているのは雇用・経済だ。安倍政権の信任を問う選挙、と言われているとおり、医療や社会保障は争点には見えない。では、政党別に順番に見ていきたい。 

宮田:まず、自民党のマニフェストの中で意外と重要だと思うのは、非営利ホールディングカンパニー型の医療法人制度。病院・病床が過剰といわれる現状において、地域の状況・特色を見ながら病院などを統合・再編していくものだ。先の国会での医療法改正で、地域包括ケアシステムが規定されたが、その中で大きな役割を果たすのが、この制度だ。 

小野崎:持続可能な社会保障制度の確立や医療保険制度改革も挙げられている。持続可能性の議論は避けて通れないはずだ。 

宮田:今回消費増税が延期された中で、少子化対策がまず優先されるとみられている。そして年金にも財源が優先配分されるだろう。そうすると医療政策に必要な財源確保は相当厳しくなると思う。医師不足にも拍車がかかるかもしれない。その中で地域によっては医療機関の統合が必要になるのでないかと思う。また、今回のマニフェストでは薬価の問題にも触れられていない。以前は新薬創出加算について言及があったりしたが。

小野崎:そういえば、話題になった薬価の毎年改訂についても全く記載はない。

宮田:8兆円規模という大きな薬剤費の中で、残念ながら日本は先進国の中でジェネリックの普及もまだまだ。後発品に置き換わっていかなければならないはずの生活習慣病関連の長期収載品の薬価もかなり高い。そういったことも含め、どのように医療費削減を進めていくのか、記載がない点は残念だ。

また、規制改革の目玉の一つである薬事法が改正されて、医薬品医療機器等法として11月に施行が始まった。医療法、介護保険法も一括改正されている。しかし、今回の臨時国会が早く閉会したため、国家戦略特区に関する法案、臨床検査技師に関する法律などは残ってしまった。しかし、規制改革は急いでやるべきだと思う。

小野崎:どの党もいわゆる改革系の政策は少ない。少し昔の話になるが、2005年の民主党のマニフェストは医療政策に大きく踏み込んでいて医療政策関係者の間で話題になった。がん対策の充実や地域医療の質の向上を訴えていた一方で、「診療報酬の適正化」「過剰・不適正な介護報酬の削減」と、いまの民主党では考えられないような点まで踏み込んだ、改革イメージの強いものだった。今回そういう踏み込んだ政策を提示をしている政党は少ない。公明党は日本医療研究開発機構(AMED)を司令塔とした革新的な医療技術の研究開発や、医療分野におけるICTの活用など医療分野に力が入っている印象だが。

宮田:公明党は以前から医療政策に注力してきたので、そう言った面では公明党が自民党と連立を組んで一緒にやっているのはいいことだとは思う。ただし、AMEDやがん対策、難病支援も法律の施行も近いが、消費増税を前提としたもの。どこから財源を取ってくるのか。公明党は財源に関する言及は乏しいので、心配だ。

宮田:維新の党はビッグデータ活用による医療費抑制や質向上、マイナンバー制度を前提とした給付付き税額控除の実現などをうたっているが、せっかく大阪府知事や市長が維新の会から出ているのだから、関西でモデルを作るなど、実効性を示していかないと全国で説得力を持つのは難しい。

次世代の党は生活保護に言及している珍しい政党。社会保障問題の中で生活保護に論点を絞って、困窮した外国人は別制度に移行するなどと言及している。社会保障の中で生活保護をどうして行くかは難しい問題ではあるが、実効性がみえない。

小野崎:次世代と維新以外は各党「拡大」「充実」「推進」という言葉が並んでいるが、財源への言及は少ない。さらにいえば、自公民と共産以外は医療分野の内容は無いに等しい。急な選挙で準備する暇がなかったといっているが、はっきり言って普段から政策をまともに考えていないことが露呈しただけではないか。

宮田:全くその通りだと思う。増税を前提として予算編成がされていて、医療機関の再編・年金対策・少子化対策といったものはそれをあてにしていた。政権が少子化対策を最優先だとして、それについては国債である程度まかなわれる可能性はあるが、その他の医療などはとても厳しくなると感じる。

■マニフェスト選挙の時代は終わったかもしれない(小野崎)

小野崎:元々マニフェストは単なるウイッシュリストではなく、検証評価可能な具体的な政策パッケージやロードマップとその実行体制を書いたもの、と位置づけられていた。しかし、その象徴だった2009年総選挙の民主党マニフェストが転機になったと思う。民主は自らのマニフェストの自縛で政権を失うことにつながった。私はそこにマニフェストの限界を感じる。一寸先は闇、未来は全て不確実という政治において、財源や数値目標まで全部約束して、それを契約だと言いきってまでロードマップを描くのはそもそも無理があるのではないか。

特に自民や民主はウィングが広いのだから、当然議員間で政策に対する考え方が異なることも多い。そうなると、「信頼を失い、どうせ読んでもらえないマニフェストに、合意形成に向けて膨大なエネルギーをかけても仕方ない」となっているのではないか。

それよりも政党は国のビジョンや価値判断の軸、安全保障・外交・社会保障改革などに対する国家が進むべき方向性をきちんと示してほしい。その上で、各候補者は、政策に対する個別の賛否や考えについて選挙戦を通じて明確に語るべきだ。今回はインターネット選挙解禁後の初めての衆院選だ。候補者が自分の言葉で語るチャンスも増える。もしかするとマニフェスト選挙の時代は終わったのかもしれない。

宮田:今回、自民党と公明党のマニフェストもよく言えば堅実、悪く言えば後退したと言える。自民党の2012年総選挙の政策集では日本版NIH、日本版FDA、日本版CDCを提示するなど、かなり思い切っていたが、かなり現実的な路線になってしまった。

■本来、今回の選挙は「医療・社会保障選挙」であるべき(宮田) 

宮田:今回の選挙はアベノミクスが争点になっているし、マスコミもそういう報道をしている。そういう面から、社会保障は大丈夫かなという気がしている。今回の本当の争点は医療・社会保障だと思う。借金だらけの財政の中で、その財源となる消費増税は中長期的に見れば、未来の子ども世代に借金を残さない、今の世代でなんとかしていこうという政策だ。しかし残念ながら、どうしても各政党は、実際に投票する現在の世代の意向を気にしてしまう。今の世代は未来の世代を見越して考えることが重要だ。

小野崎:まさにシルバー民主主義だ。衆院の小選挙区制はもちろん、参院選でも「全ての人にやさしい、敵を作らない」政策にしないと選挙にならないのが現実だ。高齢化が進んだ国では政策が保守的・穏健になる傾向があるという。日本もまさにそうなっているように感じている。日本の政治も俗に言う陳情政治だ。各種団体や自治体などが「陳情」をして、国会議員がそれをさばくのが仕事になってしまっている。

宮田:とても寂しいこと。今回もメインな党くらいで消費増税や社会保障改革を前面に打ち出してよい。しかし、それが出てこないというのは、現在のシステムで残念ながら弊害が出ているかもしれない。

小野崎:これからは利益分配などほとんどできない、基本的に問われるのは「不利益の分配」だ。何かを選ぶためには、何かを諦めないといけない。選挙では、その選択肢を示すのが筋だが、現実の選挙では、そうもいかない。「耳触りの良いこと」しか言えない。

ただ、もし今回の政権が長期安定政権になるのなら大胆な改革が起こる可能性があるのではないか。 

宮田:思い切った規制改革が進んでいく可能性が高いと思う。 

■消費増税先送りの影響は

宮田:増税先送りの影響は小さくない。医師や看護師、医療現場にしわ寄せがいく可能性もあるのではないか。しかし、そのわりには医師会や看護協会も非常におとなしい。既に大学病院や医学部長は相当危機感を持っている。本来、消費増税延期の是非は社会保障の大きな論点だ。 

小野崎:消費増税延期によって政権は政策の優先順位をこれから決めると言っているが、医療は相当厳しいと思う。 

宮田:その通りだ。製薬業界や医療機器業界も厳しくなるだろう。 

小野崎:医療とは異なるが教育も重要だ。教育の公的支出は世界最低レベル。自分が子育て世代だから思うのかもしれないが。教育と健康は密接に関係がある。教育格差は雇用・経済格差につながり、やがて健康格差につながる。健康の社会決定要因(SDH: Social Determinants of Health)は政策領域としてもっと注目されてよいのではないか。その点では、医療、教育、都市計画や雇用といったあらゆる政策は個別最適化してバラバラに進化するだけではなく、総合政策として相互にリンクしたパッケージにならないといけない。選挙をきっかけに、こういった総合政策を理念・ビジョンと言う形で政治家や政党が打ち出すべき。地方創生にも生きるはずだ。 

宮田:同感。地方創生ももっと注目されるべき。医療・教育などと同じく、難しい政策はマニフェストで触れられていない。現役世代が、将来を見据えたビジョンを示すような政党が必要ではないかとも思う。残念ながら自民党と民主党はじめ主要政党間の政策の違いを見つけるのも難しい状況になってしまっている。いかに当たり障りのないことを言うかという視点になっている。それではダメだ。

小野崎:政治家はやはり選挙で勝たないといけないし、官僚も2年で交代する。どうしても長期的な目線を持ちにくい。やはり、アカデミア、シンクタンク、もちろん個人ひとりひとりが自分たちの将来へ当事者意識を持って考えていく必要がある。

とはいえ、いまは我々ふたりとも子育て世代だからこんなことを言っているが、30年後には「年金拡充!高齢者医療費の窓口負担軽減を!」なんて叫んでいるかも(笑)。

宮田:そうならないように常に将来を見据えた政策を提示していきましょう。

 
 

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