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第26回朝食会「市民主体の医療政策の実現へ向けて ~政権交代、新年を迎えて」

開催日2010-01-07 ゲストスピーカー:黒川清(当機構代表理事)

第26回朝食会「市民主体の医療政策の実現へ向けて ~政権交代、新年を迎えて」

黒川
あけましておめでとうございます。

医療政策は新政権になってからどうなのでしょうか。ここ15年、OECDでGDPが増えていないのは日本だけ、バブル後の日本経済の危機については誰も発言をしません。医療は社会の基盤であるので、国としてどうするかは大事なことです。

みなさんは医療について、どのような立場から興味があるのでしょう。政治のプロセスとして、医療人として、行政官として、患者を家族に持つものとして、ジャーナリストとして、個人として、などさまざまな立場から関心があるのだと思います。しかし今日は、自分の立場から発言するということは止めて、自分の業界、立場を離れて、客観的にみて、日本の医療にはどのような問題があるのかを考えたいと思います。理屈ではなく直感的にどれだけ感じているか。さらに世界の中の日本という枠組みで、みなさんの立場を一歩離れて考えてみましょう。それぞれの立場から離れて議論するというインタラクティブで元気が出るようなセッションにできればと思います。それでは質問をお願いします。

会場
医療費の伸び率はどの程度が適正だとお考えでしょうか。

黒川
日本は他に類をみない高齢社会で、医療費だけの問題ではないのですが、医療で大事なのは、誰が費用をカバーするかという財源の問題と、アクセスの保障と、クオリティの保障です。外科医が足りないという問題もありますが、本当にそうなのかということもよく考えなくてはいけません。公的医療でアクセスポイントを自由に選べるのは日本だけ。それは私が意見を持っているのではないですが、アクセスポイントを限定されないという、ある意味での贅沢になれてしまっているということは一つの問題でしょう。ただそれは日本のレガシー(註:歴史的社会背景を反映する社会通念、「常識」といったコンセプト)でもあったのですが。

会場
2050年には世界のGDPにおける日本のシェアは3%となるという予測もあり、今後さらに落ちることを心配するような趨勢ではなくなってきています。医療もマーケットの大きさではなく、日本らしく光る部分を考えたいと思うのですが。

黒川
GDPは人口の係数ですから、日本が2位というのにそんなに気にする、こだわることがそもそもおかしいのです。一人当たりGDPが大事なのですが、これも16位に落ちましたが、これはグローバルなフラットな世界になっても、特に大企業も必要なM&Aもしないため、生産性はまったく上がっていないためです。社会が外から見て、全体として光るのかどうかは大事です。そのためには、生活社会やコミュニティ内で普段から顔を合わせているような慣習が必要、大事なのではないでしょうか。隣近所に子育てなどの経験を持つ人たちが本来的にはいるはずなので、そのような人たちがつながることで、家庭、子供、女性の健康を地域でサポートする。この場を、子供でも歩いて行ける距離にある小学校を中心に形成することを提案してきました。健康、医療はそのような社会の枠組みの中で成り立つものです。これについては本(註:『大学病院革命』日経BP社)にも書きました。

今から250年前、中国は世界のGDPの38%を占めていました。そして2040年には中国のGDPは40%、日本は1%。成長するビジネスは日本のマーケットを相手にしていても仕方がありません。「魂を売る」必要はないですが、なんでも日本人だけで全部やろうとするのはおかしいと思いませんか。

会場
ソーシャルキャピタルの問題では、介護の問題も深刻です。現在、多くのケースで主婦が介護をしていますが、この問題はどうにかならないでしょうか。

黒川
介護をどうするかということは大事です。北欧型の介護制度は支援するコミュニティがベースになっています。政府が「北欧型がいい」、などといいことばかり言っていますがそれを支える歴史的背景・レガシーが大事なのです。今の日本に、政府に対してそんな信頼感が感覚的にあるでしょうか?また政策も医療介護制度のプロセスにも透明性が必要です。政府と国民の間のやり取りを繰り返しながら民主主義は作られていくものです。民主主義でなければ政権交代は革命しかないのですからね。介護をどうするかも国民がもう少し後押ししなくてはなりません。政治のプロセスは現在、少しずつ透明性が高まっています。みなさんはそれぞれの分野の専門家だからこそ、もう少しそれぞれの立場から一歩引いて考え、問題を考えてみると何かが見えてくる、分かることがあるのではないでしょうか。

高齢社会は世界的課題ですが、シンガポールのような歴史的背景があって、強く、賢いリーダーシップがあるところしか上手くいかないのではないかと思うこともあります。シンガポールの厚生大臣に政策や制度のどんなことを聞いても、とてもよく知っている。非常に優秀な人が抜擢され、引っ張っていくシステムはすごいものです。

会場
クラウドコンピューティング時代のITサービスを調べており、まずは社会政策を考える必要があると考えます。食べられない人が 2000~3000万人いるなかで、英国やカナダと同様、消費税などから財源を確保する必要があるのではないでしょうか。日本では、健康保険組合が維持できず、企業に押しつけていましたが、台湾のようにスマートカードを配布すれば、それで健康保険組合の統一ができてしまいます。

75歳以上の一番お金のかかる高齢者だけを別にしたようなシステムはなりたたないはずなのに、なぜこのようなシステムになっているのでしょう。

まず、コスト負担の問題については、食べられないひとからお金をとるのではなく、ゆりかごから墓場までで面倒をみるということでなければならないと思います。また提供体制に関しては、英国では問題点があると社会政策とアクションがついてきて、有無を言わさずやりますが、日本では複雑系で皆が勝手なことを言うと何も起きません。

黒川
それは、政治家が税金を使って医療を担っているという英国のレガシーです。今の医療制度改革はブレア政権でやり直し始めているのです。前回の朝食会で話をされた厚労省の武内さんも竹之下さんとの共著(註:『公平・無料・国営を貫く英国の医療改革』集英社新書)で言っていますが、ブレア元首相は税金投入を増やす政策を、選挙に負けるリスクを覚悟でやっていたのです。自分たちの政策をどのように国民に伝えるのか、これが政治には大事です。すべてのステークホルダーが、右肩上がりの前提からできているものを変えていかなくてはならない。産業界はもうすこしグローバルマーケットに打って出るべきなのになぜやらないのでしょう。業界の再編が起こらないのは私には不満です。医療はゆりかごから墓場までと言いますが、消費税を上げるというと選挙に落ちてしまう。国民にどのように伝えるのかを考えると、政治家はもっと日頃からスピーチの重さを考えるべきです。

会場
日本人はラーメンなど脂っぽいものを食べるのが好きになってしまっています。たばこなどと同様中毒のようなものだと思いますが、そういうものは控えるべきです。また睡眠も大事であり、十分に睡眠を摂った日は調子がいい。習慣を改善することで、病気にならない生き方ができるのではないでしょうか。

黒川
メタボ、生活習慣病ですね。理屈では「貧乏人は歩け」と言えばいいのかもしれませんが、そんなことをいったら選挙には落ちそうですね。まず皆さんが「メタボ予防はまず歩こう。」などともっともっと言う、実践するのがいいのです。この借金まみれの日本に対して若い人が革命起こすようなエネルギーがないのが不思議です。一人が言っても変わらない、というようなことをいう、できない理由ばかりをいうのはおかしい。2年前にオバマが大統領になるということを本当に信じていたひとがいますか?

日本の労働人口の3分の1が年収200万円以下なのです。これで将来があるとみなが感じますか?将来への期待が持てなければ結婚もなかなか踏み切れない。これからは年功序列とは違った生き方が大事です。若者はそれを探しています。ですが、目標となるロールモデルがみえなかった。でも、最近になって社会起業家を目指すような動きがでてきました。単なる金もうけではなく、自分の生きがいを実現する機会をさがす、見つける人たちもふえています。

『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』、『若者はなぜ3年で辞めるのか』、など、城さんの著書などを読むと若者が何を考えているのか分かります。グローバル時代、海外の人たちと仲良くなるということも大事です。大学など1年休学して外国に行ってもいいのです。そうすることで、ものの見方、考え方など、社会が見えるドメインが変わっていきます。大学を早く卒業してもさしあたり大した将来はないのですから(笑)。最近はそういうことを奨励する日本では珍しいですが、先見の明のある企業もあるようです。そういう若者たちが5~10年するとものすごい価値を持って育ってくる。このような運動を皆で広げたいと思っています。

会場
健康保険組合を対象にコンサルティングをしています。複雑系の医療において、優先順位をつけることが大事で、最優先は経済ということも同感です。医療費の分配の問題としては、予防の観点でどうしたら病院にいかなくてもすむのかを健康保険組合の機能として組み込まないといけません。そこへコンサルテーションできる人を入れる必要があります。

黒川
プロとは何か、という話になってきます。プロとは、需要に対して明らかな価値を出せる人です。日本での「プロ」は、江戸末期の用心棒と戦後では予備校の先生くらいではないでしょうか。社会のニーズあった実力と収入の相関がある職業ということですけど。しかしそういうプロは日本社会では無視されてきました。社会的肩書がないと認められないというのは日本特有の特徴です。

コンサルタントといってもそれだけでは信用されない文化があるのではないでしょうか。皆が常に霞が関をみている。そういう文化をどう変えていくか。個人の力で組織を作り、世の中を変えていくような社会にしないといけません。

10年たっても名前が残るような経営者、変革をするリーダーが必要ですが、企業経営者でたとえば10年前の社長で名前を言える人がいるでしょうか?GEのジャック・ウェルチ、IBMのガースナー、日本でいえばカルロス・ゴーンくらいでしょうか。皆が名前を言えるのは社会の変化に対応して、企業を変えた人だから記憶されているのです。その他の人は主要な変革ができなかった人たち。企業に限ることではありませんが、今のような世界の変革のときにこそ10年たっても名前が残る人こそが組織のトップには必要なのです。

会場
医療の質の話で、開業医は何科を標榜してもいいことになっていますが、米国では各診療科のトータルの数がきまっています。フリーアクセスの話ともつながりますが、医療の質を考えると制度を変えなくてはならないと思います。

黒川
それはもちろんそうなのですが、まずそれをしなくてはいけないのは医者です。一方で抵抗勢力も医者です。それぞれの医者が医者として仕事をしている時間は何時間あるのかを調べ、実動の総数をまず検討する必要があるでしょう。それは厚生省の怠慢ではなく、医者が自分たちでやるということも必要です。これが「プロ」だというのであれば、「プロ」としての社会的責任です。また、これから必要なのはGeneral Practitioner(GP)です。外科医などは手術がうまくないといけないわけだからもう少し数を減らすことも考えるべきだと思います。自分の立場からの考え方、発言ばかりいても解決はできません。専門医の方がGPよりも格が上だと医師も認識し、社会からも思われているのは問題です。実際に必要とされているのは開業医GPの先生。専門医もそうでしょうが、今までの社会でも多くのGPはお金ではなくやりがいで働いている人たちです。メディアもきちんと伝えて、国民の理解を広げていくことも大事です。すぐ簡単に「インセンティブ」と言いますが、お金で教師や医者になる人がどんな人なのか、よく考えるべきです。やりがいを求めてやるひとを社会が育んでいく、認識をする、このような社会への転換の必要があるのです。これが本来の社会のあり方です。学校の先生は、同僚同士で評価しあうからこそ、誇りやプレスティージが上がってくる、仕事としてのプライドが形成される、これを地域コミュニティベースで、広い社会で、国として作っていく、都会でも田舎でも。いいアイデアがあってもどうやって実行していくかはまた別の問題で、これが大事です。

日本は何ができるのか、日本の将来は過去の人たちにあるわけないのだから、若い人にはもっと実体験をしてほしい。グローバル化はさらに進みますから、もっともっと外からみた日本を感覚的に分かるひとが増えてほしいと思っています。

だからこそ、新年の初めの朝食会のお集まりいただいた皆さんに、自分の立場をはなれて考え、発言していただきたいと、提案させていただきました。ありがとうございました。

 

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