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第17回朝食会「『医療の質』を測る」

開催日2008-07-10 ゲスト福井 次矢 氏(聖路加国際病院院長)

第17回朝食会「『医療の質』を測る」

去る7月10日、第17回朝食会を開催しました。今回は聖路加国際病院院長の福井次矢先生に「『医療の質』を測る」というテーマでご講演頂きました。多数の皆様にご参加頂きありがとうございました。

(日本医療政策機構 小野崎挨拶)

最近「『医療の質』を測る 聖路加国際病院の先端的試み」というタイトルの本(註:インターメディカ 2007)が出版され、大きな話題を呼んでいます。この本で紹介されている聖路加国際病院の取り組みは、二つの点で画期的だと思います。一つ目は、医療の質を測る「モノサシ」を開発して、実際に測定したということ、二点目に、それを出版して大胆にも公開したということです。今日はこの取り組みを始められた福井先生にお話を伺います。福井先生は京都大学医学部を卒業後、聖路加国際病院内科で研修、その後、ハーバード大学の関連病院における臨床や、京都大学教授などを経て、現在は聖路加国際病院の院長としてご活躍されております。福井先生、よろしくお願い申し上げます。

(福井先生講演要旨)

「『医療の質』を測る」

■なぜ「Quality Indicator」か
病院で、医療の質を数値として目に見える形にすることが、全ての医療者にとって、自分達が提供する医療を改善していく上における大きな動機付けになることを実感しました。「Quality Indicator」という医療の質を測る指標を導入し、それを改善するにはどうしたらよいか、聖路加国際病院における経験についてお話させて頂きます。

Quality Indicatorというものについて考え始めたきっかけは、臨床で患者さん一人一人を見ながら、一方で、常に対象集団のデータを頭において医療の質を考えなければならないという、公衆衛生的なバックグラウンドと深く関係していると思います(註:福井氏はハーバード公衆衛生大学院において臨床疫学でMPH取得)。例えば、私が米国にいた1980年代、アメリカでは、同じ病気でも病院や州によって行われる治療が大きく異なることが繰返し報告されていました。このような問題意識が背景にあったと思います。血圧を140/90mmHg以下にコントロールすることで高血圧による合併症をかなり抑えられることが証明されていますが、実際に病院で高血圧の患者を治療している医師達は、誰一人として全患者の中、血圧が140/90mmHg以下にコントロールされている患者の割合を把握できていません。私が以前勤めていた病院でも、他の診療科の患者のデータを見ることはできず、患者全体の血圧のコントロール状況を知ることはできませんでした。

■「ブランド病院」をデータで証明したい
そして4年前に聖路加病院に移ってきましたが、聖路加病院は外からはブランド病院のように思われていましたが、本当にそうなのか。すなわち、質の良さではなく愛想の良さや建物の綺麗さなどのレベルで評価されているのではないかという疑問を持ちました。私は「ブランド病院」であることを真に証明するデータを出したいと思いました。聖路加病院は5年前に電子カルテ化し、それにより全ての患者のデータを引き出せる状態にありましたので、それを利用して医療の質を測る試みを始めました。医療事故については個人の能力・注意力に任せるのではなく、システムとしてのアプローチ、即ちフール・プルーフ(間違ったことができないようなシステム)を作ったり、フェール・セイフ(間違えたことをしても患者に危害が加わらないようなシステム)を作ったりというアプローチが取られていますが、標準的な医療についても個々の医師に任せるのではなく、システムとしてアプローチするべきだと考えています。病院全体として責任を持って、適切な医療を提供するために、医療内容を目に見えるようにするのが「Quality Indicator」です。

従来、医療の質は、「ストラクチャー」「プロセス」「アウトカム」という三つの側面で表されてきました。ストラクチャーは医療機器や専門スタッフの充実度、プロセスは医療や看護の内容そのもの、アウトカムは患者の死亡率や治癒率など医療の結果としての健康状態のことです。日本の病院は全体的にはストラクチャーは非常に恵まれているので、我々は新たに医療の質を診療内容(プロセス)+結果(アウトカム)+患者の納得・満足という形で表すこととしました。

■臨床疫学の重要性
適切な医療とは何かを突き詰めると、それは根拠に基づいた医療と言えます。医療上の判断の根拠には生物学的論理と、人を対象とする臨床疫学的な結果という二つがありますが、根拠に基づいた医療というのは後者の方であり、患者さんに実際に行なった結果がどうだったかという調査・研究の結果を重視しようという考えです。これは、生物学的な論理がいまだ不完全であることを考えると、当然であるとも言えます。欧米における大規模な臨床試験からは、生物学的には正しいと思われる医療内容でも実際の患者の健康にもたらす結果は悪かったという事例もあるのです。信頼できる臨床試験の結果を根拠とし医療を提供することが強く求められていると言えるでしょう。

このような流れの中、信頼できる診療内容が「診療ガイドライン」という名前で色々な学会によってまとめられ、一般の方でもインターネットなどを利用してアクセスすることが可能になってきました。欧米に遅れること15年、ようやく日本でも信頼できる医療の環境整備が進んできました。

■欧米の先行事例に学ぶ
しかし、欧米は既に次のステップに進んでおり、信頼できる医療が実際にどれだけの病院で実施されており、その結果患者の治癒率や満足度がどのように変化しているかという検証まで行なわれています。現実的には、どれだけ信頼できるデータに基づいた医療内容をガイドラインとしてまとめても、それに則って診療を行なわない医師が少なくないというのも事実です。そのため、いかに医師にガイドラインに沿った診療をしてもらうかというのが大きな課題となっています。そこでindicatorにより提供する医療の質を数値化しフォローすることで、ガイドラインに沿った診療を促すことが欧米で行われており、実際にそのような活動で診療内容が改善されたことが多数報告されています。

このような医療の流れを知った上で、聖路加病院ではアメリカやオーストラリアなどの外国のQuality Indicatorを参考にして、2004年のデータから算出・公開を始めました。聖路加病院は診療情報管理士という、カルテの内容を管理する職員が20名近くおり、そのうちの5名にQuality Indicatorに関する仕事をやってもらうことにしました。肺炎患者における来院4時間以内の抗菌薬投与率や急性心筋梗塞患者における退院時処方率など、100近くのIndicatorを測定しています。たとえば、糖尿病患者のヘモグロビンA1cの値を7%以下にコントロールすることで合併症を非常に少なく抑えることができますが、聖路加病院では糖尿病の薬を処方されている全ての患者の中で、ヘモグロビンA1cが7%以下にコントロールされている患者の割合もIndicatorとして扱っています。そして、2005年では50%にすることができ、これはアメリカの39.8%に比べて良い成績と言えます。しかし我々はもっと成績を良くするために、糖尿病の患者を10人以上担当している医師毎ごとに、担当患者のなかでHbA1cを7%以下にコントロールできている割合を出しています。これは必ずしも医師の臨床能力のみを反映しているわけではありませんが、こうすることで改善の方策を検討できるようになります。

Indicator改善の方策の中でとくに力を入れているのは、医師の教育です。聖路加病院では糖尿病を専門としている医師は3名しかいません。それを踏まえて、先ほどの医師毎の成績のグラフを見せつつ、医師の勉強を促し、勉強会を何度も開いています。その結果、HbA1cを7%以下にコントロールできている患者の割合は、年毎に増加し、2007年には62.5%にまで上がりました。特に、勉強会に参加しなかった医師よりも参加した医師の方が成績上昇が著しいことが分かりました。このQuality Indicator導入において、一般的に一番恐れられていることは、難しい患者の診療を放棄して他の病院に送る医師が出てくるのではないかという点ですが、幸い、危惧するようなことは起こっていません。

■さらに広がる取組み
毎月一回病院においてQI(Quality Indicator & Quality Improvement)委員会というのを開いております。委員全員でデータをフォローし、必要に応じて院内のさらに大きな会議でその数字を見てもらっています。現在は私達の病院内での取り組みに留まっていますが、本を出版したこともあり、他の病院の病院長なども関心を持ち始めています。今後おそらくQuality Indicatorの概念は広がっていくと思っています。多くの医療者が医療の質や患者のアウトカムという話に興味をもち、医療へのやりがいを再認識して頂ければ幸いです。


(質疑応答)

Q: 患者満足度の測定についてはどのように行なわれているのでしょうか。

A: 病院としては毎年フォローしていくために、できるだけ簡略化した満足度調査を行っています。5つくらいの項目について、その数値を毎年フォローしていきます。2004年と2005年は全国の病院で使われていた患者満足度調査法を使っていました。しかし、項目が非常に多くてそれをずっと使っていくのは負担が大きいと考えましたので、それを参照にしながらできるだけ少ない項目で毎年フォローしていけるようなものを考えて、今年から使い始めたところです。全体としての満足度と治療への満足度の二つを評価できるようにしています。

Q: 看護の質をどう評価するということかの点ですが、今後どのように充実させていくお考えでしょうか。

A: 医師だけでなく、できるだけ多くの職種が関わるIndicatorを作りたいと考えています。診療情報管理士が全ての部署をヒアリングして、出したいIndicatorはないかを聞いてみるなどしています。しかし、医師以外のIndicatorはまだ未成熟な部分があります。例えば看護については褥(じょく)瘡(そう)の発生率や看護師の資格などしか出ていません。今後もさらに検討していくつもりです。医師だけでなく、たくさんの職種が関わるIndicatorを扱うことが重要だと思います。

Q: 患者の満足度という観点からいうと、医療の質に加えてもう一つ、病院経営の質―具体的には待ち時間の長さや説明時間の短さ等が大きな不満の原因になっています。病院経営、医療制度そのものといった病院自身の努力では解決できない部分に対してどのように取り組んでいくおつもりかお聞かせ下さい。

A: 医療制度(診療報酬)に余裕がない現状では、時間をかけた、ゆったりした診療では膨大な赤字を抱えてしまいます。これを解消するためには制度そのものを変える必要があると思います。初診の方なら45分、再診の方でも最低15分は診療を受けられるようにすると満足度も上がるでしょう。しかし、赤字が増えてもいいから理想の医療を、と言えないのも情けないところです。また、医師が実際にどのような説明をしているかという点については、今のところはカルテでは内容まで踏み込んだ記録はとれないのが現状です。会話した内容にいつでもアクセスできるようにテープだけでも録れれば、患者さんとの意思疎通の行き違いなどもかなり予防できるし、何分説明したかということも記録できます。診察室の中で医師と患者が一対一になるのではなく、第三者からの観察が可能な状況だということを意識することで診察の質は確実に上がるはずです。プライバシーの問題さえクリアできれば、何らかの方法で第三者による観察が可能な状況を作りたいと思っています。

(当機構代表理事 黒川挨拶)
慢性の疾患が多くなると患者としては色々話を聞いてほしいことが出てくる。しかし、大学の教授が時給1700円程度で働いている現状ではこれ以上話を聞くのは難しい。従って、これを解決するには医療制度そのものを変えなきゃいけない。そのためには、厚労省の人だけではなく、国民それぞれが、より良い世界を作っていくのだという視点を持って、日本にとって何を必要で何を選択するべきか考えていく必要がある。このような開かれた議論の場を通じて、私たち国民自身が考えていくことが重要だ。

 

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